割増賃金の計算方法を、みなさんは、正しく理解しているでしょうか?給料明細の数字を確認するだけで、なぜその金額になっているのか?考えたことのあるかたは、比較的少ないと思います。時給で働いている方の割増賃金の計算はなんとなく簡単に計算できそうですが、月給で基本給を貰っている方の割増賃金の計算方法ってどうなっているのか?などなど、お話していこうと思います。
割増賃金の種類とは
割増賃金とは、通常勤務時間以外の時間に勤務した場合、超えて働いた時間は、賃金を割増をして支払う賃金のことで、1日の労働時間は8時間までと決められているため、8時間を超えて働いた場合や、深夜遅くに働いた場合、休みなのに働いた場合には、割増賃金が支払われます。基本的に割増賃金の種類は以下の3種類です。
時間外労働
法定労働時間の1日8時間・1週間40時間を超えて勤務させた場合は、時間外労働として、2 割 5 分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
1時間あたり時給×125%
但し、1か月60時間を超える時間外労働があった場合は、超過した時間はさらに割増のプラス2割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
1か月の残業時間が合計65時間だった場合は、65時間-60時間=5時間が上限60時間オーバーとなります。
60時間超割り増し1時間あたり時給×150%(通常時間外125%+60時間以上の部分の25%)
65時間のうち
60時間分=時間外割増賃金25%増しで計算
残りの5時間分=時間外割増25%+60時間超割増25%=50%増し賃金の支払が必要!
法定労働時間がベースとなりますので、1日の通常勤務が7時間労働で、1時間の残業をした場合は、1日の合計労働時間が8時間以上にならないため、時間外割増賃金の支払いの必要はありません。
休日労働
法定休日に労働させた場合には 3 割 5 分以上の割増賃金を支払わなければなりません。法定休日とは、会社の所定休日ではなく、法的に週1日休みとする休日で、週1日、4週に4日と決められています。
1時間あたり時給×135%
法定休日は週1日で良いとされていますので、会社が週休二日制であっても、どちらかが法定休日で、どちらかが所定休日となります。概ね、日曜日が法定休日としている会社が多いようですが、所定休日に勤務をした場合は、通常日の時間外手当の扱いととなり、2割5分以上の割増賃金の支払でOKです。
深夜労働
深夜(原則として午後 10 時~午前 5 時)に労働させた場合には 2 割 5 分以上の割増賃金の支払いが必要となります。通常勤務での深夜残業と、時間外勤務をしていた時の深夜残業と、休日勤務中の深夜残業は掛け率が合計されていきますので、注意が必要です。
深夜時間が通常勤務時間の場合
1時間あたり時給×125%
通常の勤務であっても、シフトなどの関係上、深夜帯に労働をさせる場合は、深夜割増をした給料を支払わなければなりません。
深夜に時間外をした場合
1時間あたり時給×150%(通常時間外割増125%+深夜割増25%)
深夜に時間外をした場合は、通常の残業割増賃金25%と深夜時間割増の25%を合計した50%の割増賃金を支払わなければなりません。
休日の深夜に時間外をした場合
1時間あたり時給×160%(休日時間外割増135%+深夜割増25%)
休日の深夜に時間外をした場合は、休日時間外割増賃金35%と深夜時間割割増の25%を合計した60%割増の賃金を支払わなければなりません。
割増賃金の基本となる1時間当たりの時給の計算の方法
割増賃金の基本となる1時間当たりの時給の考え方は、月給でも、1年間に勤務する日数で計算すると算出することができます。
1か月の平均労働時間の計算方法
1年間に休日が120日ある会社の8時間勤務の従業員の1か月の平均労働時間を計算してみましょう。
例えば
1年365日-年間休日120日×1日労働時間8時間÷12か月=1か月の平均労働時間163.333時間
この会社の8時間通常勤務の月給従業員の1か月の平均労働時間は、163.33時間となりました。
これを割増賃金の基礎となる月の給与で割れば、1時間あたりの単価計算ができます。
割増賃金の基礎となる給与の内訳は
給与は、会社によって、いろいろな手当が設定され、支給されています。その中から、割増賃金のベースとなる賃金を算定するにあたり、労働基準法には基礎賃金から除外できる手当が定められています。(労働基準法第37条第5項、労働基準法規則第21条)
基本給だけを基礎に計算すれば良いと思っている方が多いですが、立派な労働基準法違反となりますので、注意が必要です。給与の内訳から、下記の手当は一律支給など、根拠なく支払われているものでなければ、おおむね除外することができます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
上記に記載の手当でも、根拠なく従業員に一律に支払われている、家族・通勤・住宅手当は、除外の対象にはなりません。
- 家族手当=扶養人数に関わらず、毎月一定金額を全員に支給
- 通勤手当=通勤距離や費用の計算もなく、毎月一定額を全員に支給
- 住宅手当=家賃や住宅ローン返済の計算もなく居住形態により、毎月一定額を全員に支給
上記のように、毎月定額で明確な根拠もなく支払われている手当は割増賃金の対象にはならないため注意が必要です。
会社はなるべく割増賃金の支出を減らそうとしますので、割増賃金の基礎額は少ない方が良いですよね。しかしながら、割増賃金の基礎となる給与の内訳は労働基準法により、明確に示されていますので、従業員は、鋭い目を光らせ、割増賃金が正当な金額であることを今一度、確認しましょう。
これらの諸手当を差し引いた、給与総額を求めます。
(基本給+役職手当+資格手当+もろもろの諸手当)÷1か月の平均労働時間=1時間あたりの時給
月給で給与が支払われているかたも1時間あたりの時給の計算ができます。
この金額は、最低賃金の計算をする場合も同様ですので、計算を覚えておくと便利です。
例 240,000円給与基礎額÷1か月の平均労働時間163.33時間=時給1,470円
時給1,470円の人が1時間の時間外残業をした場合は 1,470円×1時間×125%=1,838円となる。
給与の計算は、切り上げが原則です!
割増賃金の時間数の計算は1分?1時間?
割増賃金の計算は、基本的には、分単位で緻密に計算されなければなりません。労働者も1分でも多く働いた場合は、より多くの賃金を正確に支払ってほしいですものね。会社は、1分ぐらいの残業をいちいち計算してはくれないでしょうが・・・
給与の計算は、原則、「切り捨ては絶対にしてはいけないこと」とされています。月給者の時給を換算し時間外手当を計算する場合に出た端数は、必ず切り上げて支給しなければなりません。労働者が1円でも不利益にならないように支払われなければならないためであり、最低賃金ギリギリで計算して労働者を雇っているところなどは、切り捨てた給与を支払ってしまうと、最低賃金を下回ってしまうこともあるため、必ず切り上げて計算しましょう。
逆に、欠勤控除などの場合は切り上げてはいけません。欠勤控除は、必ず切り捨てて、労働者から1円でも多くの控除をするような計算はしてはいけません。
切り捨て御免の給与の世界ですが、唯一、切り捨てられてしまうものがあります。
それが割増賃金のもととなる時間外や休日など勤務時間数です。給与の締めや、時間外手当の計算は、どこの会社でも、1か月ごとに合計して計算し支払いが行われています。この、時間外勤務時間を合計するがくせもので、分単位の時間は、合計した場合30分単位で切り捨てや切り上げが行われているのです。
例えば
1か月の合計残業時間 5時間35分 だったとすると 30分以上の残業は繰り上げられ
6時間の時間外残業で計算されます 25分お得!
1か月の合計残業時間 5時間25分 だったとすると 30以下の残業は切り捨てられ
5時間の時間外残業で計算されます 25分の損!
この計算だけは、月単位で合計した時間外手当の支給を行っている場合は切り捨てが許されています。たった5分の差で切り上げられたり、切り捨てられたりしてしまう時間外手当の時間数、1時間の違いは大きいです。1年を通せば、もしかすると、毎月、切り上げばかりされていてお得かもしれませんが5分ぐらいの残業をして切り捨てられるぐらいなら、きっちり時間内に仕事を終わらせて、帰宅したほうが良いですね。
計算方法さえ理解すれば、給与明細を見るのが楽しくなるはずです。
計算が苦手というかたも、自分が貰う給料は1円でも多い方が良いはずです。割増賃金に適正な手当てが加算されておらず、割増賃金が少なく支払われていた事が発覚し追徴で支払われたケースも話題になりました。ニュースになってあわてて手当を加算したなんて企業も多いのではないかなとも思いますが、これは、従業員が「変だな?」と思わなければなかなか発覚しにくいものでもあります。
計算の方法をきちんと理解し、給与を支払う企業も、給与を貰う従業員も、今一度適正な給与の支払いがなされているのか、確認してみましょう。